「牛が山を駆ける牧場」奮闘記

新米 牛飼いの日常をお届け

お肉になる「ふじ」のこと

「ふじ」の出荷が近づいてきました。

明後日には屠畜されてお肉になります。

「ふじ」には今日の晩御飯が最後のご飯です。

「ふじ」はそんな未来が待ち受けているとはしらず、いつもゆっくりと通り過ごしてくれています。

 

今日は「ふじ」についての思い出を書き残したいと思います。

 

「ふじ」は2021年2月1日生まれ。

7か月半で我が家にやってきてくれました。

我が家に最初に迎えた土佐あかうしの3頭のうちの一頭で、子供を生んでくれる母牛になってもらう予定でした。

 

左側のプリプリしているのが「ふじ」。

このころはまだ牛舎をお借りできていなくて、子牛ながら山のビニールハウス牛舎(昔からの友人のお父様に作っていただきました)で育て始めました。

一日2回山へ上がって世話をしていましたが、頭数が少ないこともあってとてもよく牛のことを観察できた頃でした。

 

「ふじ」を育ててくれた農家さんはとてもよく可愛がっていたのだと思います。

すごく人懐っこくて、人が寄っていくと甘えに来る可愛い牛でした。

娘が寄り添っても全然嫌がらない「ふじ」です。

 

ご飯もよく食べて、人にも良く慣れて...(右側)

このまま心配なく、「ふじ」がおばあちゃん牛になるまでずっと付き合っていけるものだと思っていました...

 

しかし、何度種付けをしても妊娠してくれないのです。

計8回は種付けしたでしょうか...

発情もきちんと来て、牛の状態は健康。

獣医さんも何が問題か分からないとのこと...

一緒に導入した「みはる」ちゃんがとっくに妊娠して、もう出産を迎えようというのにまだ妊娠できない。

 

一旦あきらめをつけて売ってしまおうかとも考えましたが、最期まで一緒にいたかったのです。なので、誰かにお肉にするために育ててもらうのではなく、自分自身でお肉にするまで育てようと決心しました。それが一年前です。

 

土佐あかうしを飼い初めころ、10年後には牛の肥育をしたいと思っていました。

しかし「ふじ」のおかげでたちまちそれを始めることができました。

本気になってはじめてみると、周りの先輩農家の方々も親身になって技術を教えてくださいます。

「ふじ」とは私の運命を変えるための出会いだったのかなと考えたりもします。

 

いつも私に対して寄り添ってきてくれる「ふじ」を屠畜するのは正直いやです。

しかし、牛でご飯を食べさせてもらっている以上、これは避けることはできません。

 

まだモヤモヤは消化できません。

でも、「ふじ」にはきちんと「ありがとう」と感謝してお別れしたい。

命をくれる相手に対しての礼儀だと思うのです。

これも勝手な人間の感傷かもしれませんが。

 

「ふじ」、うちに来てくれてありがとう。

くれる命は無駄にせず、お客様の笑顔につなげるようベストを尽くします。

あと一日、私と一緒にいてください。